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古本大志氏 My Story

広島交響楽団のテューバ奏者として活躍され、エリザベト音楽大学、広島文化学園大学、国立音楽院、出雲北陵高校音楽科で若手奏者を指導される傍ら、映画音楽やCMの録音など、ジャンルを問わない演奏スタイルで人気の古本大志氏(以下敬称略)。そのご経歴や現在の活動、また愛奏する〈ベッソン〉の”SOVEREIGN BE981″をはじめとするテューバ各機種について、お話を伺いました。(取材:今泉晃一)
 
 
  いつからテューバを?
 
古本 テューバは中学校の吹奏楽部からですが、最初はユーフォニアムでした。小学校6年生のときの担任の先生が市民バンドでユーフォニアムを吹いていた人で、試しに吹かせてもらったのですが全然音が出なくて。僕自身ピアノを習っていましたし、リコーダーなども自信があったので、その後放課後にずっと練習して、あるとき班の出し物で演奏したら大失敗。それが悔しくて、中学では絶対にユーフォニアムをやろうと決めていました。
 
 実際、吹奏楽部に入ってユーフォニアムになったのですが、半年くらい経ったときにテューバの先輩が辞めてしまい、顧問の先生に勧められてテューバを吹くことになりました。勧められたというか、先生から電話があって「テューバは好きか?」と聞かれたので「嫌いではないです」と答えただけなのですが(笑)。最初は嫌々やっていたのですが、合奏で先生に「テューバがあるといいな!」と言われて、嬉しくなってのめり込んでしまいました。
 もともと「ユーフォニアムでソロを吹きたい」ところから始まったので、僕のソロはユーフォニアムに近いイメージなんですよ。
 
古本大志氏
 
  高校でもやはり吹奏楽部に?
 
古本 中学3年のときにたまたまその高校の演奏を聴いたら格好よくて、「この吹奏楽部に入りたい!」と思いました。進学校だったので、一生懸命勉強してなんとか合格しました。入学してからは、周りの人たちが大学を目指して勉強する中、ひたすら吹奏楽に打ち込んでいました。当然、成績はかなり下の方です(笑)。
 
 最初は地元の工業大学に行って、地元の吹奏楽団に入ろうと思っていました。そうしたら楽器を買ってもらえる約束だったんです。ところが学校で『音楽大学学校案内』を見て音大に行きたくなり、親に相談したら「うちから1人アーティストが出るのもいいか」と意外にすんなりOKが出て、でも「楽器はどうする?」という話になりました。「次のテストで学年100位以内に入ったら考えてやる」と言われて、多分人生で一番勉強しました。楽器のカタログを見てモチベーションを上げながら勉強した結果、何とか買ってもらえることになりました。その楽器が〈B&S〉の“3198”、シルバーでピストンのPT6P*です。
( * ダニエル・ペラントーニとロバート・トゥッチの共同開発製品のため、「PT」の愛称を用いて呼ばれることが多い。)
 
〈B&S〉“3198”(PT6P)
 
 
  なぜその楽器を選んだのですか。
 
古本 アップライト型の楽器しか見たことなかったところに、銀色で前にピストンが付いている楽器がカタログに載っていて、「これはすごいぞ!」と。いざ買ってもらうことになったとき、当時習っていた先生に「いい楽器が2本あるから」と言われて見に行きました。PT6のイエローブラスのロータリーとシルバーのピストンがあったのですが、あまりに格好よくて銀のピストン一択でした(笑)。でも価格差が結構あって、親を納得させるためにロータリーはちょっと手を抜いて吹き、ピストンの方は全力で吹いて「ほら、こっちの方がいい」と言って納得させて、無事「銀のピストン」をゲットしました。
 
 楽器は学校の部室に届けてもらったのですが、その日の授業中はずっとニヤニヤしていました。放課後部室に飛んで行くとケースに入った楽器が届いていて、開けてみるとピッカピカのPT6Pが出てきた。あのときに気分は今でも忘れられませんね。
 
古本大志氏
 
 

PT6はまさに教科書のような楽器

 
古本 そのPT6Pは大学4年まで使っていました。その後ヴァルター・ニルシュルのヨーク・モデルに、PT6Pを頭金にして買い替えました。手放したくはなかったのですが、背に腹は代えられないということで。
 それまではPT6Pで育ったわけですが、とにかくバランスのいい楽器で、ベストセラーになる理由がよくわかります。PT6は吹く人をニュートラルに戻してくれる楽器なんです。吹いたことのない人たちには改めて吹いて欲しい。楽器に変なくせがない分、自分のくせがわかるんです。まさに教科書のような楽器だと思いますので。
 
 そういうわけで、今でも〈B&S〉のC管が僕のサウンドの原点になっています。僕はE♭管のイメージが強いと思いますし、E♭管テューバ奏者にはパトリック・シェリダンという憧れの人がいますが、C管ではずっとサミュエル・ピラフィアンに憧れてきました。彼はエンパイア・ブラスの創設メンバーで、エンパイア・ブラスの『Greatest Hits』は初めて買ったCDでした。
 それからアート・オブ・ブラス・ウィーンで吹いていたジョン・サス。ジャズとクラシックどちらもできる人で、バッハとジャズではまったく違う顔をしてい吹いていましたね。僕が高校生のときに《ジャイブ・フォー・ファイブ》というジャズ調のおしゃれな金管五重奏曲をやることになったのですが、全然吹けなくて、先生に貸してもらったアート・オブ・ブラス・ウィーンのCDを耳コピーしてその通りに吹きました。この2人が、僕のC管の礎です。
 
古本大志氏
 
  その後、ヨークを使うようになる。
 
古本 大学4年生のとき、ある楽器店でヴァルター・ニルシュルのヨーク・モデルを吹いたときの衝撃が忘れられなくて、PT6Pを頭金にして、あとは親にお金を借りてヨークを買いました。
 ところがPT6と違って、音は良いけれど言うことを聞いてくれない。太い楽器ということもあって吹きこなすのが大変でした。でもこれを吹くことでE♭管の音も良くなったような気がして、その後の日本管打楽器コンクールで1位を取ることができました。今、生徒に教えるときも息のことを重視していますが、それも多分ヨークと向き合ったときに勉強になったことが元になっていると思います。
 
 その前、大学3年生のときに浜松国際管楽器アカデミーに参加して、ジーン・ポコーニさんに習ったことがあります。ヤマハのヨーク・タイプを使われていたのですが、近くで音を聴くとシカゴ響のCDなどで聴いていた音とは全然違って、かなりソリッドな音なんです。ジーンさんと言えば「温かいサウンド」というイメージですが、すぐ近くで聴くと決してそうではない。それを体験できたのはよかったと思っています。
 
 

何管の楽器を使うかではなく、「この楽器で吹きたい!」と考えて選ぶ

 
  話が前後してしまいますが、E♭管を買ったのも音大に入ってからですよね。
 
古本 1年生のとき日本管打楽器コンクールを受けることになって、C管ではソロは難しいので、普通ならF管を買うわけですが、僕はパトリック・シェリダンやジョン・フレッチャーが好きで、彼らがE♭管を使っていたこともあって、「自分もE♭管を使いたい」と思い、安元(弘行)先生に相談したんです。そうしたら「僕もË♭管は好きですよ」と言ってくださって。「でも周りの目もあるので形がF管に似ているフロントアクションの楽器にしなさい」とアドバイスをくれました。それで選んだのが〈ベッソン〉の”BE983″です。しかもパトリック・シェリダンが監修したモデル。当時E♭管のフロントアクションがそれくらいしかなかったのも事実ですが。
 
〈ベッソン〉”BE983″
 
 それからずっと、コンクールとかオーディションはその楽器で受けていました。やはり「E♭吹いているの⁉」と言われることは多かったですね。オーケストラのオーディションでもF管が指定されていたりとか。でもオーケストラスタディも一通りE♭でさらいましたし、自分が吹いている分には特に困ることはありませんでしたね。
 その後E♭管はより小ぶりな”BE984″という楽器を使うようになり、現在は”BE981″(現在は“BE9822”にアップデートされている)というモデルを使っています。
 
〈ベッソン〉”BE981″
 
 ただ、卒業してからF管も勉強するようになって、「F管にはF管の良さがある」と思うようになりました。最初に買ったF管は〈B&S〉の“3100WGJ”というラーセン・モデルでした。それまでF管には苦手意識が強く、いちおう仕事のために安い中古を持っていましたが、“3100WGJ”は最初に吹いたときに「この楽器だったら、コンクールでも吹きたい」と感じました。すごく好きな音でしたね。C管のPT6Pにせよこれにせよ、やはり〈B&S〉は僕のターニングポイントになる楽器なんですね。
 
〈B&S〉”3100WGJ”
 
 それでF管も積極的に吹くようになったのですが、いずれにせよソロなら「パトリック・シェリダンのように吹きたい」という気持ちがあるので、今はE♭管もF管も使うようになっています。もっと言えば、B♭、C、E♭、Fの楽器をほぼ均等に使っています。僕の中では全部の楽器が全部良い。B♭管は〈メルトン・マイネル・ウェストン〉の“195 FAFNER”(ファフナー)ですが、これも大好きな楽器です。この間ブルックナーの交響曲第7番を演ったときにはどうしてもこの楽器で吹きたいと思った。でも音が高く外れやすくなってしまうので、結局C管で吹きましたが。
 マーラーの6番を演ったときには、曲中でB♭管とC管を持ち替えました。第4楽章のソロはどうしても“FAFNER”で吹きたくてね。
 だから、「この曲は○管で吹こう」と考えるのではなく、「この楽器で吹きたい!」と考えて選んでいるんです。自分が吹きたいもの、自分の出したい音楽によって楽器を選びますね。
 
〈メルトン・マイネル・ウェストン〉“195F AFNER”
 
  マイネルの“195FAFNER”は、ノンラッカーなんですね。
 
古本 大学時代に安元先生に、「オーケストラのテューバの音は、アレキサンダーのB♭管の音だから」と言われました。そう言われると知りたいじゃないですか。後にマインツのアレキサンダーの工場に行って吹かせてもらったら、すごく良かった。それを知った上で、僕は“FAFNER”を選んだんです。大好きな楽器だったし、それまで使っていた楽器はピストンが多かったので、ピストンの“FAFNER”を注文しました。そして自分なりの「アレキサンダーの音」に対する答えとして、ノンラッカー仕上げにしてもらいました。
 自分の生徒には「これが僕にとってのオーケストラのテューバの音だから」と言いたいですね。
 
古本大志氏
 
  C管は、今は何をお使いなんですか。
 
古本 〈メルトン・マイネル・ウェストン〉の“6450/2 BAER”で、シルバーとラッカーの両方持っています。ほとんどの場合、オーケストラで使うのはシルバーの方です。この楽器は、以前使っていたニルシュル・ヨークと吹き比べたとき、聴いていた人が「絶対に“BAER”の方がいい」と言うので使い始めました。
 “6450/2”は手間のかかるシートメタル製法を使っているから、スタンダードの“6450”より絶対に良いと思っていたのですが、今スタンダードの方も欲しいんです。開発者のアラン・ベアさんは、生徒がオーディションを受けるときには自分の“6450/2”を貸すのですが、いざオーケストラに受かったら“6450”の方を薦めるのだそうです。それを聞いて、一度オーケストラで使ってみたいと思っています。
 
〈メルトン・マイネル・ウェストン〉“6450/2 BAER”
 
 

子どもたちにも音楽とか楽器に興味を持たせて欲しい

 
  楽器の扱いに関して気を付けるべきことはありますか。
 
古本 何か調子が悪かったら、楽器のプロに見てもらうということでしょうか。
 テューバは多少楽器にダメージがあっても音は出るし、「音程が悪いのは吹き手のせい」となってしまいがちです。でも修理・調整は大事で、自分のせいでうまくいかないと思っていたことが、楽器のせいだったということもよくあるんです。僕自身も買ってすぐの楽器を専門の人に調整してもらって格段に吹きやすくなった経験があります。
 ひどい話ですけれど、中学の吹奏楽部でテューバに移ったとき、ピストンの爪が折れて軸がくるくる回る状態でした。当然、角度によっては音が出ない。でも先輩も楽器のことを全然わかっていなくて、「もっと息を入れなさい!」と言われて(笑)。
 吹奏楽部ではテューバの修理や調整って一番後回しになってしまいがちなんですね。公共事業としてテューバのリペアマンを派遣するようなことができないでしょうか。
 
 僕は、今はビュッフェ・クランポンに来れば楽器のことをよくわかっていて、一番いい状態にしてくれる、いわばパーソナルトレーナーがいるようなものです。プロのスポーツ選手でも、自分の体をケアしてくれるメディカルサポーターが必ずいますよね。実際に「楽器の調子がよくない」と思って見てもらうと、やはり何かあるんです。そこは我慢するところではないですからね。
 
  吹奏楽部はなかなかそうはいかないのでしょうね。
 
古本 今、吹奏楽の指導をすることが多いので、かなり切実に感じています。
 それから、あれだけの人が部活で楽器を経験しているのに、卒業しても続けている人が少ないという事実もあります。それは「楽器の楽しさ」を教えていないからではないでしょうか。指導者が「自分は嫌われてもいいから」というのも違うと思います。だって、ディズニーランドで働いている人が「嫌われてもいい」なんて思わないじゃないですか。楽しさを教えるときに、怖くする必要はないですよね。
 
古本大志氏
 
 それから、「吹奏楽部の練習があるから演奏会を聴きに行けない」というのも違うと思う。僕は子どもたちが、「すごく楽しい!」「これもやりたい、あれもやりたい」となるように指導したいんです。
 例えばドビュッシーの《小組曲》を練習しているフルートの子が「すごくきれいな曲だよね」と感じる。「今度オーケストラでその曲をやるからおいで」と言って聴きに来て、「はやく帰って自分もフルート吹きたい!」と感じる。そういう人がたくさん育って欲しいんです。逆に部活が嫌になり、音楽も嫌いな子が出てくると、僕らは結局自分の首を絞めることになってしまうわけですからね。
 そのためにはまず、先生が音楽を好きになって欲しい。子どもたちと同じ目線で楽器の楽しさを知って欲しい。それで、子どもたちにも音楽とか楽器に興味を持たせて欲しいですね。
 
  古本さんは、本当にテューバが好きですからね。
 
古本 テューバという楽器自体が好きなんですね。今使っていないけれど気になっている楽器も山ほどあるんです。実際にモデル名を挙げたら、10本じゃ全然足りない。そうやって楽器が増え続けていくのだと思います。
 いちおうルールがあって、部屋にあるテューバ棚に入らなくなったらそれ以上増やさない、という。でもすでに3本あふれている。車をもっと大きなものにして倉庫代わりにしてしまうおうかということも考たりするのですが、そうすると「まだ増やしても大丈夫」と思ってしまうので、もっと危険ですね(笑)。
 
  ありがとうございました。
 
写真左から、池田正太(ビュッフェ・クランポン・ジャパン技術者)、古本大志氏、今泉晃一氏(取材/執筆)
 
 
※ 古本大志氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
E♭ Tuba: 〈ベッソン〉“BE981”(現行機種”BE9822″)
F Tuba: 〈B&S〉“3100WGJ”
CC Tuba: 〈メルトン・マイネル・ウェストン〉“6450/2 BAER”、〈B&S〉“3198”
BB♭ Tuba: 〈メルトン・マイネル・ウェストン〉“195FAFNER”(ファフナー)

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