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牛上隆司のLET’S吹奏楽

〈ベッソン〉ブランド公式ウェブサイト日本版特別企画として、2022年4月より、バンド指導者として全国的に活躍されているユーフォニアム奏者、牛上隆司氏による連載「Let’s 吹奏楽」を、全12回の予定でお届けしています。
Vol.1 「セレナータ」ヤン・ヴァンデルロースト初のユーフォニアム独奏曲をお披露目!はこちら
Vol.2 コンサートを成功させるには、はこちら


Vol.3 演奏のクオリティを上げるための9つのポイント

 皆さんこんにちは。6月に入り、地域によってはひと月後に吹奏楽コンクール地区大会を控えているところもあります。また6月に定期演奏会を実施するバンドも多いですね。今回のLet’s 吹奏楽では、コンクールまたはコンサートで演奏のクォリティーを上げるためにどうしたら良いか?について、9つのポイントに分けて語って行きたいと思います。先月触れた通り、楽譜通りに音が並べば完成という訳には行かないのが音楽の難しいところです。

① スタイルについて
 スタイルと言うのは、有名なところではウインナーワルツとかスィングジャズなどです。自然発生的に、その国独特の歌い方や演奏の仕方が生まれて根付いて行くので、お国の方には当然でも外の人間には余程勉強しないと分からない物があります。スタイルに合った演奏が出来ていないと、全くその作品に聴こえないという事が起きます。そうなると作品の解釈がおかしいとか間違えていると言った評価をされて上手に演奏していたとしても低く評価されてしまいます。

② 上手に演奏するために
 上手に演奏するには、ある程度奏者の習熟度が進んでいる必要があります。ある程度上達していれば、吹奏楽の作品を演奏する上で過剰に苦労する事は少ないと思います。稀に音域が広く、特に高音域が出せずに苦労するケースもあるかと思いますが、音域的に無理であればその作品は避けた方が無難です。少しの努力で吹けるようになるなら、ハードルとして適正だと思います。音が上手く並ばないような状態であれば、基礎力をつけて習熟度を上げて、難無く演奏出来るようにして行きましょう。基礎が出来ていれば、吹奏楽作品であまり苦労す  る事は無いはずです。
 最近は人数不足から初心者の一年生までコンクールメンバーとしてステージで演奏しなければならないケースも多いかも知れません。しかし楽器を持って2〜3ヶ月の生徒が思い通りに吹けて、音形などニュアンスを合わせたり音程を合わせたり、デリケートなコントロールをするのは困難です。やっとママ・パパ・まんま と喋り始めた乳児や幼児に「てにをはがなってな〜い!」などと怒鳴るような指導は問題があります。優しく楽しく、楽器の正しい奏法を教えてあげましょう。それが難しくお困りでしたら、どうぞ呼んで下さい。

富山県立富山工業高等学校での指導の様子

③ 歌い方
 歌うと言うのは、まさしく歌っているように演奏する事で、これは鍵盤楽器・弦楽器・管楽器に関わらず、メロディーや裏メロ・オブリガートなどを歌っているように表現する事です。表情豊かに表現出来ると聴いている人達のハートをガッチリ掴む事が出来ます。もちろんセンスという要素も重要です。

④ ハーモニー
 大抵の作品は、ハーモニーが構成されています。メロディーももちろん重要ですが、和声がどの様に構築されて、どの様に展開し進んで行くかと言った事も楽曲を演奏する上で非常に重要です。そして、各々のハーモニーをきちんと響かせるには、ユニゾンが合っているのはもちろん、平均律からは少しズラしてイントネーションを合わせてハモらせる必要があります。それによりサウンドを増幅させて演奏効果を最大限に発揮する事が出来ます。必ずしも純正律がベストとは限らないのですが、多くの場合純正律は大変効果的です。ただ、減七の和音などは経験上平均率の方が綺麗に響いて聴こえます。同じ和声でもバランスなどによって使い分けが必要だと思います。いずれにしてもデリケートな音程のコントロールは必須です。

⑤ 音形
 作品のスタイルによって、また場面に応じて、音の形を揃える必要があります。大きく分けて3種類、タ、ターン、ター、を吹き分けられるようにしましょう。(図例)
タ は、パンでも良いですが、短く発音して響いた状態。
ターン は、発音した後、伸びているが減衰して行く状態。減衰の度合いは、場合によって速かったり遅かったりします。
ター は、減衰せずに終わりまで伸ばす状態。
音形・音程が揃っていると、整然とした印象になります。

⑥ アインザッツ・リリース
 アインザッツですが、発音するタイミングが揃っていると綺麗に聴こえます。音を切るリリースもそうですが、発音が揃わないとより目立ちます。音程・音形・アインザッツが揃って、リリースが揃うと大変質の高い演奏に感じます。聴いていると贅沢な時間に感じます。演奏は聴いてくれている人達に訴える物ですから、聴衆に心地良くなって貰うのはとても大切な事ですね。

⑦ バランス
 スコアを読み取って、どの音を1番良く聴こえるように演奏するか、バランスを取るのは大変重要です。メロディーや裏メロがその時々に様々な楽器から奏でられ、ハーモニーや伴奏がバランス良く聴こえて来ると音楽が立体的に聴こえ音楽に深みが増して説得力のある演奏となります。

⑧ 歌と楽器演奏の違い
 歌は非常に表現力の高い物です。ただ、上手く歌うには高いソルフェージュ能力と忍耐強い訓練が必要です。正しい音程を狙って声を出せなければ歌えないからです。それに対して、楽器は習熟して来ると正しい指使いと音程の狙い(ソルフェージュ)、息のスピードなどで、ある程度正しい音程を掴む事が出来ます。そういった意味で、歌に比べるとずっと易しく音を取る事が出来ます。
 それでは、隣の人と音程を合わせる際の違いを考えてみましょう。まず歌の場合は、非常にフレキシブルに合わせる事が出来ます。合わせる相手が聴こえていれば、恐らく無意識に合わせる事が出来るはずです。
 それに対して、管楽器の場合はどうでしょう。先に述べたように、ある程度正しい音程を出す事は簡単ですが、ほんの少し上げ下げするのは実は結構難しいのです。楽器なりに出た音程を全く変えられない生徒さんも沢山おられます。これも必要性と方法を教えていけば、徐々に出来るようになって来ます。辛抱強く指導するしかありません。指導者の先生方には、この辺りの違いについてもご理解を深めて頂ければと思います。

富山県立富山工業高等学校での指導の様子

⑨ 指揮について
 最後に指揮についてです。演奏の出来不出来を最も左右する、一番重要な存在が指揮者です。指揮者が作品を一番勉強し、奏者たちに伝えて作品全体を纏め上げなければなりません。でも、なかなか理想通りとは行きませんよね?
 そんな時こそ生徒の皆さんと一緒に音楽を作り上げて行く事で、音楽活動を充実した物として行く事が出来るのではないでしょうか。生徒さん達と音楽を作り上げる上でコミュニケーションは非常に大切です。とても責任が重く、大変な立場ではありますが、皆んなでの演奏が大成功した時の喜びは、掛け替えの無い物です。

 これをお読み下さっている指導者の方々には、生徒の皆さん達と音楽の本当の楽しさを分かち合って指導して頂けるよう願っております。

 今回は本番を間近に控えている方達のために、演奏を成功させるためのポイントを駆け足で書かせて頂きました。来月以降は、ポイントを絞って掘り下げて行きたいと思います。

Let’s 吹奏楽

牛上隆司

※ 牛上隆司氏への指導および出演依頼は、最寄りの〈ベッソン〉公認特約店、またはビュッフェ・クランポン・ジャパン ショールームへご用命ください。
※ 牛上隆司氏の経歴と現在の活動はプロフィール、およびインタビュー記事でご確認いただけます。
※ 牛上隆司氏に関する最新情報はFacebookでご覧ください。

牛上隆司のLet’s 吹奏楽
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